| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) C3-28 (Oral presentation)
独占仮説は、高い分散能力を持つ生物が局所個体群間で異なる遺伝子組成を持つという逆説的な現象の成立機構として提唱された。ミジンコ(Daphnia)など循環単為生殖を行う生物では、創始者個体のうち局所ハビタットの環境に適した個体がまず単為生殖で急速に増加し、ついで有性生殖により多数の休眠卵を残す。この過程が繰り返されれば迅速な局所適応が生じ、ハビタットに創始者由来の強固な遺伝子組成が形成されることになる。その結果、新たな少数個体の移入があっても遺伝構造への影響は無視できるほど小さくなるという。この独占仮説によれば、近隣湖沼間では遺伝子流動が小さいばかりでなく、交雑可能な近縁種でさえ新規ハビタットで局所個体群が成立し難いことを示唆している。この可能性を検証するため、山形県民の森にある畑谷大沼とそれより800mほど離れた荒沼でDaphniaの個体群動態と遺伝子構造の解析を行った。解析にあたっては、2011年4月~12月の期間、毎月1回の頻度で調査を行い、マイクロサテライト 9座とミトコンドリア12SrDNAを用いて両沼のDaphnia個体群の遺伝子構造を調べた。調査の結果、いずれの沼でもD. dentiferaとその近縁種であるD. galeataが同所的に出現していた。遺伝子解析の結果、畑谷大沼では両種は交雑していること、D. dentiferaでは両沼間で共通のハプロタイプが分布していることが分かった。これらは、両湖沼間での遺伝子流動と異系統の交雑による共存の可能性を示唆しており、独占仮説ではうまく説明出来ないことが伺われた。