| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) C3-31 (Oral presentation)
19世紀末にJ.M. Baldwin(1896)は「有機的選択」概念を提唱したが、これは生理的適応や学習行動による適応が進化的適応を推進するもので、ボールドウィン効果と呼ばれる。我々は寄生蜂ゾウムシコガネコバチが、宿主アズキゾウムシjC系統とヨツモンマメゾウムシhQ系統の2種の匂いを学習し頻度依存捕食することで、3者実験系で宿主2種に交代振動が発生し、永続性が高まることを発表した(Ishii and Shimada 2012, PNAS)。これは成虫蜂による産卵学習行動である。これに対して、寄生蜂が自分の育った宿主での幼虫期/羽化期の匂い学習も、攻撃する宿主への選好性を高める可能性があるが、本種ではまだ報告されていなかった。
本実験では、jC、hQ、及びブラジルマメゾウムシC107系統(対照)の3種を生育宿主として寄生させ、そこから育って出た蜂を羽化した豆と一緒に48時間放置した。その雌蜂1匹につきjCとhQを1:1で十分に与え8時間寄生させた結果、生育宿主の匂い学習によって娘蜂の選好性の増加が有意に検出された。すなわち、親世代に寄生された宿主から出た娘蜂は、羽化した宿主の匂いを記憶・学習して、次に宿主を探しに出る時にその学習を頼りに同じ宿主を探す継代効果が示された。この結果を受けて、既に発表してきた個体ベースモデル(Shimada et al. 2011, 2012)を改良し、Baldwin効果が導入できるようにして解析した。その結果、Baldwin効果は仮想の新規宿主にも迅速に適応でき、従来にはない迅速な適応の動態が解析できた。この予測は、野外で報告されている寄生蜂の新規宿主への迅速な適応を説明できるだろう。