| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) C3-34 (Oral presentation)
東京湾の再生を評価する場合、釣りの対象として人気のあるマハゼの回復がひとつの指標となる。マハゼは冬に深場で産卵・ふ化し、春に浅場で着底、夏にかけては主に浅場で成長し、秋には繁殖のために徐々に深場に移動すると言われている。しかし、近年は産卵場所が減少するなどしており、繁殖生態や初期生態が変化している可能性が示唆された。そこで本研究では、2009年から2011年の間に東京湾から採集したマハゼ150個体について、耳石の微量元素分析(Sr/Ca)を行い、ふ化から着底までの初期発生の時期に成長したと考えられる部分に着目して、変動パターンを解析した。耳石のSr/Caは生息環境の塩分を反映し、塩分が高いほどSr/Caが高くなると言われている。解析では、目的変数をSr/Ca値、説明変数を耳石の中心からの距離とし、解析ソフトRを用いて一般化線形モデル(GLM)を推定し、AICによるモデル選択を行った。モデル式は一次式(y=ax+b)とし、選択された式によって、 a>0の場合は上げ(塩分の高い所へ移動)、a<0は下げ(塩分の低い所へ移動)、a=0は一定(塩分の変化はほとんどなし)として、パターンを分けた。先述のように「深場でふ化、浅場で着底」の移動であれば、東京湾の塩分環境から、「下げ」のパターンを示すと考えられるが、これに当てはまる個体は約52%であり、これとは異なる移動を行う「上げ」は20%、「一定」は28%であった。生息場所ごとにみると、多摩川上流の個体はすべて「下げ」の典型的なパターンを示したのに対し、他の場所では複数のパターンが混在しており、この混在は異なる場所でふ化した個体が集まっていることを示していると考えられた。