| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) D1-03 (Oral presentation)

オオクチバスの産卵行動を誘導する人工産卵装置の開発

中井克樹(琵琶湖博)

オオクチバスMicropterus salmoidesは、全国各地に拡がり、多くの水域で激増し、生物多様性や漁業に甚大な被害を与えている侵略性の高い外来種であり、外来生物法の定める特定外来生物に指定されている。人工産卵装置とは、本種が仔(卵・仔魚・稚魚)を保護する繁殖習性を利用して繁殖個体を誘引し産卵を誘導、卵塊や仔魚を回収するための装置である。

この装置の原型は、宮城県伊豆沼で開発され画期的成果を収めた。その仕様は、籠状のプラスチックトレイを2枚合わせ一辺50cm程度の正方形にしたものを本体とし、その底面に砂利を敷き、水底に設置する「直置き式」であった。しかし、この装置を導入した他の水域でバスの産卵が誘導されない事例が相次いだ。そこで演者らは、他の水域からの知見を総合し、新たな仕様として「吊り下げ式」装置を試行したところ、直置き式装置の有効性が確認できなかった水域においてバスの産卵の誘導が見られたため、以後、吊り下げ式装置の改良を継続している。

初期の吊り下げ式装置には、透明度の低い水域や水位変動の大きな水域における設置が困難であるという弱点があった。これを克服するため、透明度が低く水位変動の大きいダム貯水池において、網場(あば=流木防止フェンス)や取水ポンプ筏など、岸から「沖出し」され水位変動を受けない施設に装置の係留する試験と、岸から沖方向へ網場状に伸ばした網フェンスの先端に装置を係留する試験とを行った。その結果、どちらの試験でも岸から10m以上離れた位置に係留した装置にオオクチバスの産卵が誘導された。

このことは、通常は湖岸沿いに産卵適地を探索すると推測されるオオクチバスが、沖出し施設に出会った場合、オス、メスともに沖側へと遊泳し、係留された装置を見つけるとそこに産卵を行うことを示唆している。このように吊り下げ式装置は、水域の特性に応じて沖出し施設に係留することが有効であると考えられる。


日本生態学会