| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) D1-09 (Oral presentation)

関東地方で拡散を始めた国内外来種リュウキュウベニイトトンボ

苅部治紀(神奈川県立博物館)

リュウキュウベニイトトンボ Ceriagrion a. ryukyuanum は、東南アジアに広く分布する種の中国南部から台湾、南西日本にかけて記録される亜種である。国内での分布は鹿児島県以南の九州、琉球列島とされていたが、近年北上傾向が顕著で、熊本県、宮崎県などに分布を拡大している。

ところが、2006年に本来の分布地から遠く離れた神奈川県横浜市鶴見区の企業ビオトープで本種が確認された。同地の個体群は当初「ベニイトトンボ C. nipponicum(環境省RL準絶滅危惧種)」として記録されていたもので、筆者の調査によってその実体が明らかになった。

本種の長距離移動記録はないことから、人為的移入が生じたものと考え、ビオトープの造成経緯を調査した。その結果水草は静岡県の圃場からの移植のみで、九州などの既知分布圏からの移植はなく移入の経緯は不明である。一方2005年ころにやはり横浜市内で熱帯魚店から購入したホテイアオイから本種が発生したという報告があり、2009年に横浜市南部の個人宅で、ハス鉢からの大発生が確認された。これらは水草由来の移入と考えられる。

その後の調査で、横浜市旭区(2011年)、同鶴見区(2012年)で本種がそれぞれ1メス確認、新たに鎌倉市でも発生しているという情報がある。さらに、2011年に東京都新宿区での発生事例も報告され、首都圏ではすでに本種は定着初期の段階を経て、拡散期に入ったものと考えられる。

なお、本種の自然北上域では、本種とベニイトトンボとの競合が生じ、後者が絶滅する事例もあることから、2010年から予防的な駆除に着手し、2年間で1500頭あまりを駆除したが、顕著な抑制には至っていない。

本種は、今後さらに分布を拡大する可能性が高いので、とくに首都圏において監視をするとともに、生態系被害が生じるのかどうかを注視していく必要がある。


日本生態学会