| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) E1-03 (Oral presentation)

河川沿いに生育するパイオニア性樹木オオバアサガラ:地表の撹乱頻度に対応した生育型の変化

*新井千乃,定平麻里,近藤博史,酒井暁子(横浜国大・院・環境情報)

オオバアサガラは山地の渓流沿いや林縁に分布する先駆種である。シカ不嗜好性植物であることから、これまで樹型を含めた種特性について研究されており、単幹のまま生育する場合と萌芽幹を生産して複幹となる場合が知られている。本研究ではオオバアサガラの個体群維持戦略を明らかにするために、そうした形態的可塑性に注目した。

丹沢山地西部の砂防堰堤周辺に自然分布する集団を対象に調査を行った。その結果、1)単幹型は、オオバアサガラ以外の種も多く分布する河床からの比高が最も高い安定した立地に多く出現した。この樹形の個体は、セーフサイズに達する樹齢5年程度までは複幹型に比べて成長が遅いが、それ以降は速く、10年・10m程度までは相対的に樹高が増す傾向にあり、その後は直径成長は続けるものの樹高は頭打ちとなって多くの個体が繁殖を行っていた。2) 複幹型は、どの微地形タイプにも分布するが、他種の出現頻度が低い河床部に近い立地において優占度がより高い傾向にあった。この樹形の個体は、樹齢5年程度までの成長は速いが、その後の成長速度は上がらない。標準繁殖開始樹高は約3.5mと低く、しかし繁殖に至る個体の割合は低い。

以上の結果からオオバアサガラは、安定した立地では、樹高成長に優先的に資源投資を行って、他個体よりも有利な光条件を得てから繁殖を始めると考えられた。一方、撹乱頻度の高い河床部に近い立地では、損傷修復の必要性および他個体との競争圧が低いため、上伸成長よりも萌芽幹形成を優先させると考えられた。このようにオオバアサガラは、定着した場所の撹乱頻度に対応して表現型を適応的に変化させる戦略によって個体群を維持していることが示唆された。


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