| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) E1-06 (Oral presentation)
外来植物の新環境における分布拡大過程を明らかにすることは、植物の分布決定への理解につながる。外来種が侵入に成功する要因の一つに、複数回移入の影響が挙げられる。異なる侵入系統同士の交配により遺伝的多様性を高まり、新環境への適応に貢献すると言われている。それでは自殖性植物において、複数回移入はどのような影響をもたらすのだろうか。本研究は、近年日本に侵入し急速に分布を拡大した自殖性越年生草本ミチタネツケバナ(アブラナ科)に着目し、複数回移入の影響の解明を目的とした。
日本中の集団を対象に、(i)いくつの侵入系統がどのように分布をしているか、過去から現在で分布はどう変化したか、(ii)各系統はどのような性質を持っているかを検証した。(i)を明らかにするために87地点563個体と貯蔵標本44個体をSSRマーカー9座を用いて集団構造を推定した。また、(ii)を明らかにするために58地点の94個体から種子を採集し同一環境下で栽培し形質を測定した。
現在日本では、東北、関東、北陸・関西に異なる3つの侵入系統(北、東、西系統)が分布を広げていた。過去の分布との比較の結果、関東ではあとから入った東系統が分布を広げ、先に入った西系統は分布縮小していることが示唆された。また、形質測定の結果、北・東系統は厳しい冬に適したフェノロジーを、西系統は穏やかな冬に適したフェノロジーを持っていることが明らかとなった。これら系統間の形質の違いが、関東における分布の入れ替わりに影響したのかもしれない。複数回移入により各系統の分布拡大・系統間競争が起こることで、広範囲において遺伝的多様性を維持し、環境適応したことが示唆された。