| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) E3-27 (Oral presentation)
樹木の枝系は当年枝の繰り返しによって構成されている。多くの樹木において当年枝は葉を支え光合成において大きな役割を果たすと同時に、繁殖器官を生産している。このような成長と繁殖というトレードオフ関係にある二つの活動は、枝系を構成する様々なサイズの当年枝の間でどのように分担されているだろうか。本研究ではエゾヤマザクラを材料に、当年枝のサイズと、生産される花芽の数の関係性を明らかにし、樹木の成長と繁殖の生活史戦略の観点から考察した。
エゾヤマザクラ(Prunus sargentii)は本州中部以北および北海道に生育する落葉高木種である。2010年5月に北海道大学キャンパス内に生育する3個体のエゾヤマザクラ個体の枝系各1本をランダムに選択し、枝系の先端から当年枝が50本以上含まれる分岐までを調査対象として、2010年から2012年にかけて追跡調査を行なった。
1)当年枝長と葉芽の数の間には直線的な関係が見られたが、当年枝長と花芽の数の間には頭打ちの関係が見られ、全ての芽に占める花芽の割合は枝長が5cm以下の当年枝では高いものの、それより長い当年枝では低くなることが明らかになった。2)葉芽は1つのみで花芽を複数つけるサイズの小さな当年枝が多く見られた。このような当年枝は繁殖のみに特化し、加えて、このような当年枝からは翌年も同様の当年枝が生じる確率が高いことが明らかになった。
これらの結果からエゾヤマザクラではサイズの小さな当年枝が繁殖に、大きな当年枝が成長に機能分化していることが示された。この機能分化は、効率的に空間を占有しながら繁殖量を増加させるエゾヤマザクラの繁殖戦略であると考えられる。