| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) E3-31 (Oral presentation)

種子散布能力が異なるクサトベラの二型~地形と出現頻度の関係~

*栄村奈緒子・宮田和裕・上田恵介(立教大・理)・酒井美由紀・傳田哲郎(琉球大・理)・安藤温子・井鷺裕司(京都大・農)

海岸植物のクサトベラには、果実形態の異なる二型が同所的に存在する。一方は水に浮くコルク質と鳥が食べる果肉質を持つコルク型、他方は果肉質のみを持つ無コルク型である。果実型は個体によって一定し、葉緑体と核DNAの計1892bpの配列に型間で違いが見られない。この形態の違いから、二型の種子散布能力は異なると予想される。種内の個体間で種子散布能力が異なり、それらが同所的に見られる植物は今までに知られておらず、適応的意義は明らかではない。そこで、この二型の海流と鳥による種子散布能力と、異なる環境における二型の出現頻度を比較して、これらの適応的意義について考察した。

海流散布能力の比較は、海水での各型の果実390個の浮遊率から調べた。その結果、コルク型は5ヵ月にわたって約90%が浮遊し続けたのに対して、無コルク型は実験開始後直ちにほぼすべてが沈んだ。鳥散布能力の比較は、果肉糖度、果実サイズ、糞分析から調べた。果肉糖度と果実サイズはコルク型1207個、コルク無型629個を計測したところ、糖度は無コルク型のほうが有意に高かったが、サイズに違いがなかった。糞に含有する種子数は無コルク型のほうが多い傾向が見られた。したがって、二型の海流と鳥による散布能力は異なることが示唆された。

二型の出現頻度は国内19島88集団で、各集団の約50個体から算出し、地形毎(崖、岩場、浜)に比較した。その結果、コルク型は浜で、無コルク型は崖で出現頻度が高かった。崖は浜よりも海から隔離されているため、海流によるコルク型の移入が困難なのかもしれない。崖では鳥、浜では海流というように、地形ごとに主な種子散布者が異なるため、崖では鳥散布能力に優れた無コルク型、浜では海流散布能力に優れたコルク型の適応度が高くなり、出現頻度が高くなったと考えられる。


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