| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) F2-16 (Oral presentation)

豊橋市葦毛湿原の植生変化とその復元  ー37年間の成果ー

中西 正 (愛知県専門調査員)

葦毛湿原(第1湿原)の植生については1976年に調査を始めた。永久枠を設置しての群落調査と植生図を作成し、時間をおいての比較によりその遷移を捉えた(基礎調査)。1988年からは、この変化を戻せるか(植生の復元が可能か)を見るために面積を限ってツルヨシ群落、ヌマガヤ群落、イヌツゲ群落、ネザサ群落等の除去を行い、遷移後退を試みた(回復実験)。その後、1991年からは、より広い面積での群落除去(小規模実験)を行い、一定の成果を得た。これらの結果をもとに1995年から湿原全体の植生回復施策に入った。

植生回復施策の実施に当たっては、一度に広い面積は行わないこととした。全体を7区画に分け、そのうちの半分で群落の除去を行った。年間2回の作業で、1回の作業では湿原の1/14に手を加えたことになる。この作業に当たるのは市民で、「ボランテイア養成講座」を受講した人とした。この講座は自然の仕組みや植生回復の知識を得るためのもので、10回程度で構成した。これによって、意思統一ができ、作業が丁寧に行われたと思われる。

基礎調査の段階ではシラタマホシクサ群落は減少しており、イヌツゲ群落のような木本群落は増加していた。そのまま手を加えなければ、近いうちに湿原全体が木本群落に変化するであろうと推測できる状態であった。しかし、植生回復施策に入ってからはシラタマホシクサ群落の減少は止まっている。この結果は植生回復作業の成果と言える。

第1湿原の近くには第2湿原、第3湿原があり、ここでは植生回復の作業を行っていない。この第2、3湿原で群落面積の変化を見ると、遷移によって草本群落が極端に減少していた。この第2、3湿原での変化と第1湿原の結果を比較することによって植生回復作業の成果はより明確になると考えられる。この成果と今後の問題点を論じたい。


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