| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) G1-07 (Oral presentation)
他の生物に依存して生きる寄生・共生生物は、あらゆる生態系に普遍的に存在し、しばしば著しい多様化を遂げている。そして、これらの生物の多様化機構として重要だと考えられているのが、宿主の乗り換え(宿主転換)に伴う種分化である。宿主転換については、陸上では植食性昆虫を中心に膨大な知見があるものの、海洋生物での理解は依然として遅れている。
ウロコガイ上科Galeommatoideaは、浅海を中心に600種以上に多様化を遂げた小型の二枚貝のグループである。多くの種は他の動物の体表や巣孔で居候して暮らす共生生活を営む。上科全体での宿主の範囲は極めて広く、節足動物、環形動物、棘皮動物、刺胞動物、腕足動物など9動物門にも及び、高次分類群レベルでの宿主の多様性は海洋生物の中でずば抜けている。本研究では、ウロコガイ類を様々な宿主から網羅的にサンプリングし、18S, 28S, H3, COIの4遺伝子を用いた分子系統解析を行うことによって、この二枚貝類の共生様式の進化と寄主転換による多様化のパターンを調べた。その結果、ウロコガイ類は、系統的に非常に離れた分類群間であっても繰り返し寄主転換を行いながら多様化を遂げてきたことが明らかになった。一般に寄生生物の宿主転換の範囲は系統的に近い宿主間で限られることから、ウロコガイ類の宿主転換パターンは非常にユニークなものであると考えられる。
また本研究の過程で、ウロコガイ上科の1種アケボノガイが軟体部に赤血球を豊富にもつことも明らかになった。他のウロコガイ類はヘモシアニンを呼吸色素として持ち、ヘモグロビンを含む赤血球は持たない。分子系統解析の結果から、この赤血球はアナエビとの共生の進化に伴って獲得されたことが示唆された。そのため、この赤血球はアナエビの嫌気的な巣孔環境への適応である可能性が高い。