| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) G3-29 (Oral presentation)
森林樹木の多種共存機構について、環境に対する種の反応に基づくニッチ分割説と個体の同一性を基礎に置く中立理論の間で論争が続いている。前提の異なるモデルが共存を説明することから、種レベルの理論と個体レベルの理論の間にはミスマッチがあると考えられる。本研究では稚樹の更新過程を対象に、各樹種の成長特性で局所スケールの隣接個体間の競争がどの程度説明可能か検討した。
奥羽山系の渓畔景観にベルトランセクトを設けて稚樹センサスを2回行い、位置座標と光条件を記録した。本数の多い10種の光-成長曲線を比較した結果、①暗条件での成長に有利な種、②暗い環境でも光の増加に伴い成長速度が増加する種、③明るい場所に分布が偏り成長速度の大きな種という、落葉広葉樹に一般的なニッチ分割が認められた。
各稚樹の隣接個体との局所的競争では、各種の対戦相手には偏りが大きかった。隣接個体の成長速度との関係をもとに局所対戦の「勝敗」を決定した結果、勝敗が光-成長曲線から予想されるランキングに一致した割合(予想的中率)は概して低く、樹種レベルではヤマハンノキが0.93、ブナとオヒョウが0.67と0.62、他は0.0~0.3であった。個別の種ペア(対戦数の多いもの)でも多くが予想的中率0.6未満で、多くの種はヤマハンノキやブナが近傍に不在の場合には「番狂わせ」を頻繁に起こしていた。
以上の結果は、ニッチの種間分離は確かに認められるものの、競争排除は概して起きにくいことを示唆する。この一見矛盾する現象は、競争するのは種ではなく個体であることに起因すると考えられる。競争の結果は個体差がもたらす不確実性や、競争に強い種の不在(更新制限)に強く左右され、多種共存は中立理論的な過程で実現しているといえる。