| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) G3-30 (Oral presentation)
積雪の少ない太平洋側地域と多雪な日本海側地域との間で植生に顕著なちがい(植生背腹性)がみられることは日本の植生の特徴であり、積雪環境は日本の植生分布の成立ならびに植生変遷を考える上で重要な要因である。本州の亜高山帯では植生背腹性がとくに明瞭であり、積雪が多くなるにつれてコメツガ、シラビソが劣勢になる一方で、オオシラビソは優勢になる(今西,1937;鈴木,1952;杉田,2002)。しかしながら、積雪環境の実測データに基づく定量的解析は行われておらず、多雪環境下でコメツガが劣勢になるメカニズムは明らかにされていない。そのメカニズムとして「積雪下で蔓延する菌害(雪腐れ病)が針葉樹の種子・実生ステージの死亡(定着阻害)をもたらしており、樹種間の菌害抵抗性のちがいにより阻害程度が異なる」という仮説が提唱されている(杉田,2002)。本研究は、積雪環境が種子・実生ステージにおける針葉樹の消失過程に及ぼす影響を解析し、積雪量に応じて定着阻害が生じているかを検証した。
調査地として中部地方の富士山、金峰山、北八ヶ岳、御嶽山、志賀高原、東北地方の早池峰、八幡平の7山8林分を選定し、積雪環境として根雪日数の観測を行った。各林分において、実生発芽まで(種子期)、発芽後当年生秋まで(当年夏期)、当年生秋から翌春融雪まで(当年冬期)のそれぞれのステージについて亜高山帯性針葉樹の死亡率を算定した。種子期と当年夏期では根雪日数と死亡率との間に明瞭な関係がみられなかったが、当年冬期にはコメツガ、Abies(オオシラビソ、シラビソ)ともに根雪期間の長い林分ほど死亡率が高い傾向がみとめられ、コメツガのほうがその傾向が明瞭であった。この結果は、実生が最初に経験する積雪季を乗り切れるか否かによって定着の成否が決まっている可能性を示している。