| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) G3-31 (Oral presentation)
大規模撹乱後の遷移では、多種の種子移入、実生定着を経て地上部植生が発達する。さらに、移入種子の一部は、未発芽のまま生存し、シードバンクを形成する。遷移の進行に伴い、地上部植生とシードバンクの種組成はしばしば変化するが、変化が引き起こされるメカニズムはこれまで明らかになっていない。本研究では、撹乱から30~40年が経過した遷移進行中の湿原において、植被・リターの発達が地表面および地中にどのような環境変化を引き起こすのか、また、それらの環境変化が個々の種の実生定着及びシードバンク形成にどのように作用するのかを野外実験から検討した。
北海道サロベツ湿原泥炭採掘跡地内の植生・リターの発達状況の異なる複数のサイトにおいて、植生調査およびシードバンク組成調査を行った。次いで、播種実験により優占種の実生定着成功を比較した。さらに、移入種子の発芽率およびシードバンク形成確率、種子の移動パターンを種子の埋土実験および散布実験より比較した。
植被・リターの発達に伴い、地表面の光合成有効放射量、地表面および地中の温度日平均および日変動幅は減少した。遷移の進行したサイトでは、植被・リターによって地表面が強く被陰され、耐陰性の低い種の実生定着が制限されていた。また、地上部植生中に種子サイズの大きな種の出現が増加していた。一方シードバンクでは、リターの増加に伴い、種子サイズの小さな種がリター下で長期間生存するようになり、それらの種のシードバンク形成が進んでいた。一般に、種子サイズの大きな種は耐陰性が高い。これらより、地上部植生では、遷移の進行とともに種子サイズが大きく耐陰性の高い種が優占する傾向にあるが、シードバンクでは種子サイズの小さな種が優占するようになり、その結果、地上部植生とシードバンクの種組成の変化がもたらされると結論した。