| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) G3-32 (Oral presentation)
ブナ林では繰り返し訪れる豊作の翌年には多くブナの実生が発生する。実生がその後、どのような経緯を経て生き残っていくのかについては、十分な研究が行われていない。
これまでの研究から、実生が生き残るためには光環境が整っていることが必要であることが明らかになった。当年生実生は、ササ稈密度が高い場合、ほとんどが秋までに枯死するが、稈密度が10本/m2以内であれば多くが生き残る。その後ブナ実生は、ブナ樹幹下を避けてブナ以外の樹幹下で長期間生き残る傾向がある。ササの下の光環境はブナ実生が長期間生残するための必要条件ではあるが、十分条件であるかどうかについて検討した。
岡山県北部の若杉原生林で標高1000m付近に設定した2つの調査区(30m×30m)で、林冠構成種やブナ実生の位置とササ稈密度や光環境(日平均積算光量子量)との関係を2007年から追跡調査した。
2012年に発生した当年生実生はおよそ10000本/haと多かったが、秋にはそれぞれ39%、27%までに減少した。生残率とササ稈密度との間には、調査区1では有意な相関関係が認められたが、調査区2では認められなかった。ブナ以外の樹幹が大部分を占める調査区1では長期間生残するブナ稚樹があり、生き残った場所はブナ以外の樹幹下であった。その場所ではササの稈密度がブナ樹幹下に比較して高く4から10本/m2程度であった。長期間生残する稚樹は、この3年間では生残率は高かったが、生長量が横ばいで、死亡原因が大木の落枝に巻き込まれた物理的なものであった。ブナの葉のSPAD値は、ササの上に出たブナの低木とササの下の稚樹とは有意な差が認められたが、稚樹と2006年に発生した実生との間には有意な差が認められなかった。
チシマザサの下では長期間生残できる光環境があり、その光を利用して長期間生き延びる個体があるが、成長してササの上に出るだけの十分な光環境ではないことが明らかになった。