| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) G3-33 (Oral presentation)
生長量は生物の活力度を測る指標の一つであり、環境変動による個体の定着や死亡に先立って変化する動的な要素と言える。そのため生長量の変動は、特に樹木などの寿命の長い固着性の生物において、気候変動などによる変化をいち早く検出する際に有用と言える。そこで本研究は、冷温帯を代表するブナを対象に、関東周辺の分布下限から上限において年輪コアを採取し、過去100年間の生長量変動を解明することを目的とした。
調査はブナの標高分布域の上限から下限にかけて設置した6つのサイト(雲取山(高)、雲取山(低)、丸岳、天城山(高)、天城山(低)、加波山)において行った。
各調査サイトごとに、DBH:15~75cmの健全なブナを8~10個体選出し、年輪コアを採取した。また4つのGCMから各調査サイトの気候値を算出し、6サイト全てのデータを含めて年輪幅と気候値との関係を、GLMMを用いて解析した。
結果として、過去100年間のブナ年輪幅は、最も寒冷な雲取山(高)サイトの調査地では増加傾向にあったが、温暖な丸岳、天城山(高)、天城山(低)、加波山においては減少傾向にあり、気温傾度に沿って全く異なる傾向が見られた。中間的な気温域である雲取山(低)サイトでは、顕著な年輪幅の増減は見られなかった。またGLMMにおけるモデル選択の結果、冬季平均気温の2乗項を含むモデルが選択され、冬季平均気温に対して年輪幅は一山型に変化した。
気温域によって年輪幅変動が異なると言う結果は、同じ種であっても、温暖化の影響が気温域によって全く異なる事を示唆している。低温域では生育期間の延長や低温ストレスからの解放、高温域では乾燥ストレスの増加などが要因として考えられた。