| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) H1-02 (Oral presentation)

ヒトの配偶者選択の文化進化:ヒノエウマの迷信はヴォルバキアと似ている

*巌佐 庸(九大・理・生物)・CInthia M. Tanaka (Univ. San Paulo, Brazil)

1966年には日本での出生数が大きく低下した。これはヒノエウマの迷信によるものである。60年に一度訪れるヒノエウマの年に生まれた女性との結婚を避ける配偶者選択と、その迷信により予想される娘の苦労を避けるべくヒノエウマ年での出産を控える親の選択行動の結果である。本研究ではこの不合理な配偶者選択が広がる要因を知るため、この現象を文化進化の力学モデルにより解析した。BelieverとNonbelieverのタイプがあり、いずれになるかは子供のときに受けた親の影響により決まるとする(垂直伝播)。[1]子供に対する影響が父母のいずれが強いか、[2]ヒノウエマの年での出産を避けるかどうかを父母のいずれが決定するか、[3]ヒノウエマ年での出産の回避に失敗する率、などにより、文化進化の結果が異なる。

モデルの解析によると、母親の影響が強い(母系)場合にはヒノエウマ迷信が集団に固定する。これに対して父親の影響が強い(父系)場合には迷信は消滅する。父母ともが影響をもつ場合(たとえばメンデル遺伝)には、初期頻度によって消滅するか固定するかのいずれかになる。

この結果は、迷信の広がりに影響する要因を考えると理解できる。迷信は、Believer男性が配偶相手を見つけにくいために子の数が減るコストと、Believerの親がヒノエウマ年での出産を避けるために娘の繁殖成功が改善されるというベネフィットの影響をうける。子供が母親のB/Nを受け継ぐ場合には、男性は伝播する能力がないために迷信のコストが存在せず、ベネフィットだけを享受する。そのため母系伝播する場合にはヒノエウマ迷信が確実に広がり固定する。これは、ヴォルバキアが細胞質不和合を引き起こすことで広がる現象と数理的に同じである。


日本生態学会