| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) H1-05 (Oral presentation)
温度依存性決定(TSD)は、性染色体によって性が決定される遺伝性決定(GSD)とは異なり、受精卵が分化する過程においてさらされる温度によって、性が決定されるような性決定機構のことである。TSDの適応的意義についてはいくつか仮説があり、その中の一つが“雌雄の生存率が孵化温度に依存する(雌雄が温度依存的適応度を持つ)ならば、TSDはGSDより適応的でありうる”というものである。 Snow skinkというトカゲは温度依存的適応度を持っていることが示唆されているが、ある地域の個体群ではTSDが用いられ、別の地域の個体群ではGSDが用いられている(Pen et al., 2010)。このような生物の存在は、温度依存的適応度を持っている生物において必ずしもTSDがGSDより適応的に有利になるわけではないことを示している。それゆえ、TSDを用いることが適応的に有利になるには、温度依存的適応度によるメリットを大きくするような環境が必要であると考えられる。そのため、数理モデルを用いて本研究ではTSDがGSDより適応的に有利になる条件について解析する。
本研究においては、TSDを用いる個体群のモデル(T-model)とGSDを用いる個体群のモデル(G-model)を以下の仮定のもとで構築する。(1)孵化温度はある分布をもち、その平均値は世代ごとに変動する。(2)T-modelとG-modelの両方において、生存率は孵化温度依存の関数である。(3)TSDでは孵化温度によって性が決定されるが、GSDでは孵化温度によらず性が決定される。これら2つのモデルの個体群成長率をさまざまなパラメーターの下で計算し、比較することで、どのような条件の時にTSDがGSDより適応的に有利になるかを解析する。その際に用いるパラメーターは適応度の温度依存性の強さ、孵化温度の分散の大きさ、そして孵化温度の平均値の世代間変動の大きさである。