| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) H1-07 (Oral presentation)
誘導防衛などの表現型可塑性は個体群動態を変化させるうるが,誘導防衛をもつ被食者と捕食者に加え,第2の被食者が含まれる群集の動態はあまり分かっていない.資源を巡って競争関係にあるバクテリア(FlectobacillusとPseudomonas)と,共通の捕食者である繊毛虫(Tetrahymena)の3種を用いた実験より以下の結果が得られた:Flectobacillusは,Tetrahymenaを絶滅させるほどの防衛をするが,Pseudomonasとの資源競争に負ける.一方、PseudomonasはTetrahymenaに捕食され,個体群サイクルを示す.3者が同時に存在する場合(FPT系)には,その共存状態は安定な個体群サイクルとなる.
本研究では,観測されたこれらの個体群動態と表現型可塑性の動態を説明するための数理モデルを構築した.まず,FPT系に対応する数理モデルを遺伝的アルゴリズムを用いて探索したが,その結果,Flectobacillusだけではなく,Pseudomonasにも何らかの未観測な誘導防衛があることが分かった.次に,モデルにおいて,FPT系の共存状態がFlectobacillusとPseudomonasの防衛戦略から受ける影響を調べた.その結果,Pseudomonasの誘導防衛が鈍くなると個体群動態はサイクルから平衡状態へと変わったが,Flectobacillusは同様の変化でそれ自身が絶滅した.以上のことから,Tetrahymena-Pseudomonasの関係がFPT系全体の動態を決める一方で,Tetrahymena-Flectobacillusの関係は全体の群集動態よりはFlectobacillusそのものの存在の可否に関係することが示唆された.