| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) H1-08 (Oral presentation)
Ewens抽出公式は遺伝的浮動と(中立)突然変異との平衡状態にある集団(個体数一定のWright-Fisher集団)のサンプリング理論であり、標本中のアレル数はEwensの式(標本数-アレル数曲線)によってその期待値が与えられる。また、多変量Ewens分布は十分大きな標本数でFisherの対数級数則に漸近する。ここでは、集団サイズが確率変数で与えられる開いた系において、集団サイズ、アレル数、アレル頻度分布、および、環境変動(あるいは個体群変動)の大きさの間の統計的関係を、シミュレーションにより考察する。
ランダム環境下、平衡点(環境収容力)のまわりで密度依存的に個体数が変動する世代重複のない任意交配集団を考える(個体群変動の相関時間は密度依存の強さの逆数となる)。個体あたり次世代に残す子の数がポアソン分布する分岐過程に中立突然変異を組み込んだ無限アレルモデルで、集団における変異の消長およびアレル頻度の増減を数値計算すると、頻度分布の裾は対数級数則より重くなり引き延された指数関数で表され、このとき形状パラメータの値は集団サイズの幾何標準偏差の逆数に等しい。ある一定数の標本中にあるアレル数は、個体群動態により誘導された確率過程となり、このときの標本数-アレル数曲線と同じ関係式を与えるWright-Fisher集団の個体数により、Ewensの式に依拠した有効集団サイズ(あるいは遺伝的浮動の強さ)が定義でき、これは変動する集団サイズの調和平均と一致する。一方、集団のアレル総数の期待値に対しEwensの式が成立するような(標本数を増やした極限に対応する)特徴的な集団サイズは、環境収容力に一致する。これは、アレル総数の期待値は環境収容力によって決まり、集団サイズのゆらぎの大きさには影響を受けないことを意味し、引き延された指数関数の裾を持つアレル頻度分布を用いて確認できる。