| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) H2-14 (Oral presentation)

オオミズナギドリの越冬海域と尾羽の水銀濃度

綿貫豊*・山下愛(北大水産)・石塚真由美・池中良徳・中山翔太・石井千尋(北大獣医)山本誉士・伊藤元裕(国立極地研)・桑江朝比呂(港湾空港技研)

海洋生態系においてさまざまな汚染が拡大しており、有機水銀汚染の時・空間変化のモニタリングは重要課題の一つである。ところが外洋域では、その濃度が薄かったり、対象生物がまちまちであったりして、海域ごとの比較が困難である。海鳥は生物濃縮によって環境中水銀濃度のわずかな変化もとらえ、その摂取量と組織中の水銀濃度には相関がある。特に、羽根は水銀を多く蓄積し、サンプリングと保管が容易な点からよく使われている。海鳥は越冬海域で主な羽根を換羽するが、越冬海域がよくわからないため、羽根の汚染がどこの海域の汚染を反映するのかはっきりしなかった。本研究では、オオミズナギドリの越冬海域をバイオロギング手法によって特定し、その尾羽を3カ所の繁殖地で採取し、その水銀濃度を測定した。各個体は、オオミズナギドリは南シナ海、アラフラ海、ニューギニア北部海域のいずれかで越冬し、南シナ海で越冬した個体の尾羽根の水銀濃度(3.1ppm)は他の海域(0.8~1.5ppm)より高かった。窒素安定同位体比で調べた栄養段階が高い個体ほど水銀濃度が高い傾向があったが、この海域間の差は栄養段階の違いでは説明できなかった。繁殖地間の差はなかった。本研究は、海鳥の移動追跡と組織の汚染物質測定によって、測定が困難な外洋域における海洋汚染の海域間の違いが推定できることを示唆する。


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