| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) H2-15 (Oral presentation)
森林の樹冠に降った雨水の一部は、林床に到達することなく大気に還る。この降雨の遮断損失は森林を取り巻く水循環の中で大きな割合を占めている。日本の森林の約4割は針葉樹人工林で、ヒノキとスギはその代表種である。しかし、これら針葉樹林の遮断損失量を1年以上の期間、精度よく定量した例は多くない。また、観測例が少ないので遮断損失の過程は十分に検討されていなかった。そこで本研究では、同齢のヒノキ・スギ人工林で遮断損失量を定量するとともに、蒸発量の理論値と比較し遮断損失の物理的過程を明らかにすることを目的とした。
観測は福岡県飯塚市の弥山試験流域にて行った。流域内は樹冠の成熟した41年生の人工林だった。同じ標高のヒノキ林分とスギ林分に約9m四方の調査区をそれぞれ設置した。樹冠通過雨量は転倒式雨量計19個で観測した。また、樹幹流量は樹幹流を大型バケツに集め貯水量の変化から求めた。これを調査区内の5個体で観測した。さらに、調査区から約320m離れた開けた場所で微気象観測を行った。観測は2010年6月から2011年12月までの19ヶ月間行った。解析はヒノキ131降雨、スギ121降雨について行った。
その結果、観測期間中の積算降水量は4284 mmであった。通過雨量はヒノキ(65.3%)でスギ(67.9%)より少なく、逆に樹幹流量はヒノキ(9.1%)でスギ(5.6%)より多かった。結果として遮断量はヒノキ(25.6%)とスギ(26.4%)で有意差はなかった。降水量に対する遮断量の割合はほぼ一定で、これは降雨強度が大きくなるほど遮断損失の速度が大きくなる現象(降雨強度依存性)と関係していた。蒸発量の理論値は観測値の約40%を説明した。結果から、降雨中に未知の過程で遮断損失が起きていることが示唆された。