| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) H2-17 (Oral presentation)
【背景と目的】 近年,大陸からの越境大気汚染による日本海側森林土壌への硫黄負荷が懸念されている。そこで,硫酸イオン現存量と土壌の化学性について,日本海側と対照地(利尻島および内陸部)を比較するとともに,硫黄安定同位体分析を用いた蓄積硫酸イオンの起源の特定を行い,越境大気汚染の影響を明らかにすることを目的とした。
【調査地および方法】 日本海側から13地点,対照地から8地点の黒ぼく土を選定し,層位別土壌試料を形態別硫酸イオン量および化学性の分析に供試した。また,抽出した硫酸イオンを硫酸バリウムとして回収し,質量分析器を用いて同位体比δ34S(‰)を測定した。
【結果】 硫酸イオン現存量は,日本海側で平均6.7mmol kg-1,内陸部で平均2.4mmol kg-1と有意な差が認められ,さらに日本海側では土壌pHが低く,交換性Al量が多い傾向が認められた。一方,吸着母体となるAl,Fe量については地域間に有意な差は認められなかった。硫酸イオンのδ34S(‰)は,内陸部で平均+4.9‰となり,日本起源の石油のδ34S (-0.9‰)と陸上生物起源硫化水素のδ34S (+6.0‰)の中間の値であった。日本海側については,海塩寄与率の既存データから非海塩性硫酸イオンのδ34Sを算出したところ,平均+6.6‰となり,内陸部と有意な差が認められた。この値は,内陸部のδ34Sと中国起源硫黄酸化物のδ34S (+7.8‰)の中間値であり,越境大気汚染物質が混入している可能性が示された。内陸部と日本海側の硫酸イオンの現存量とδ34Sの差が全て海塩性硫酸イオンと中国起源の硫黄酸化物に起因すると仮定すると,中国起源の硫黄酸化物の寄与率は,利尻島で6~10%と少なく,東北地方・新潟県で4~52%,北陸地方で26~78%と推算され,日本海側の南地域ほど越境大気汚染の影響が強いことが示唆された。