| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) J1-05 (Oral presentation)
朱太川水系の過去の魚類相を再構築することを目的として、博物館標本と聞き取り調査を行なった。
美幌博物館、北海道大学総合博物館水産科学館、市立函館博物館、国立科学博物館において、朱太川水系から採集された魚類標本調査を行ない、13種の魚類標本の所在を確認することができた。しかし、市立函館博物館の1923年以前の標本台帳に記されているイトウHucho perryi標本の所在は不明であった。
また、朱太川漁業協同組合の関係者18名に過去の朱太川水系の魚類相に関する聞き取り調査を行ない、42種の魚類の採集・観察歴について情報を得た。同定の信頼性が高いと考えられるのはそのうち34種であり、地域の漁業協同組合の保護・増殖の対象種であるかどうかと、聞き取り対象者が生息量の減少を認識していたかどうかは、有意に相関していた。カワヤツメLethenteron camtschaticumなどの氾濫原湿地を利用する魚類の生息量の減少を指摘する回答者が12名いた。
現在は見られないイトウが過去に確かに生息していたこと、カワヤツメの生息量が急減したことが聞き取りからほぼ確かであることが判明し、黒松内町の生物多様性地域戦略における自然再生の目標設定、すなわち「氾濫原湿地の回復」の妥当性が確認された。
多くの人々が関心をもって採集・観察してきた生物種については、聞き取り調査によって生息量の変化に関する情報を得ることができる可能性が示唆された。