| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) J1-07 (Oral presentation)
岩手県大槌町は2011年3月11日に発生した大津波により,人口のほぼ1割の死亡・行方不明と市街地の85%以上の壊滅という重篤な被災を受けた。我々は1990年代および震災直後からも、同町の湧水域に生息するイトヨの生態調査を、水文調査を含めて継続してきた。これらの生息地の環境は大きな被害を受けたが、一方で、倒壊した市街地跡には地盤沈下と湧水湧出によって新たな水域が広い範囲で生じた。新しい水域自体は震災当年にも出現していたが、瓦礫堆積のため現在よりも小規模で水系ネットワークが分断されて湧水量も少なく、水質は悪化していた。2012年7月、我々はこの新しい水域で汽水性ハゼ類とともにイトヨ群を発見し、営巣活動や稚魚の確認をした。これまで同町には淡水型イトヨが2つの河川流域の湧水域に定着し、これら河川本流を通して遡河型イトヨが春に遡上することがわかっている。本発表は、今回発見されたイトヨ集団の形態学・遺伝学的解析を周辺集団と比較し、かつ津波の挙動から、どの生息地からどのような経路で進入してきたかを示唆し、新生息地における生態・生活史を成長や餌および水質環境の検討から現状を記載する第一報である。本新規集団は淡水型と遡河型などから構成されていることがわかり、また12月になっても降海せずに多くの群れが残存していた。この集団の起源と実態を解析していくことは、津波に伴う分布拡散による新規生息地における生物の適応現象を示す好題材ともなろう。