| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) J1-09 (Oral presentation)
東京湾では戦後の大規模な埋立で,干潟上縁部の塩性湿地が消失し,そこに依存的に生息するベントス種の絶滅危惧化・希少化が進行している.そこで,東京湾の塩性湿地依存性の希少ベントスの生態の解明および保全を目的として,生息状況の調査結果から各種の分布特性と生息規定要因を推定した.
東京湾沿岸部31カ所の干潟域の塩性湿地を調査地とした.2010~2012年にかけて各調査地で年複数回,マクロベントス種の生息状況を記録し,確認された種のうち「干潟の絶滅危惧動物図鑑」(日本ベントス学会,2012)で「準絶滅危惧」以上のカテゴリに指定されている14種を解析の対象とした.各調査地の間隙水塩分・底土・ORP値を採集,計測し,GISから各調査地の地盤高・植生面積・調査地点間の距離を環境要因として求めた.以上の環境要因を説明変数,各希少種の在・不在を応答変数として,GLMを用いて解析した.
その結果,分布特性の説明モデルとして6種が選択された.クリイロカワザンショウは塩分(+),ヒメアシハラガニは地盤高(-),ベンケイガニは地盤高(+),ヒナタムシヤドリカワザンショウは底質中央粒径値(-),クシテガニは塩分(+)と地盤高(-),ウモレベンケイガニは塩分(+)と底質中央粒径値(-)であり,塩性湿地環境内での種の選好性が示された.またクリイロカワザンショウ,ヒメアシハラガニ,クシテガニは湾奥部から湾東部,ヒナタムシヤドリカワザンショウ,ベンケイガニは湾奥部から湾西部,ウモレベンケイガニは東京湾全域に分布していた.湾東部分布の希少種は高塩分と低地盤高に,湾西部分布の希少種は泥質と高地盤高に生息する傾向が示された.東京湾は湾西部に江戸川,荒川,多摩川の大河川が集中し,河岸地形の形成,淡水流入に伴う塩分差が,塩性湿地依存希少ベントスの分布に影響している可能性が示唆された.