| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-11 (Oral presentation)

遺伝マーカーを用いた熱帯性海草ウミショウブの地域個体群維持機構の解明

*中島祐一, 松木悠 (東大・ア生セ), Dan Arriesgado (東工大・院・情報理工), 練春蘭 (東大・ア生セ), Miguel Fortes (Univ. of the Philippines), Wilfredo Uy (Mindanao State Univ.), Wilfredo Campos (Univ. of the Philippines), 仲岡雅裕 (北大・フィールド科学), 灘岡和夫 (東工大・院・情報理工)

海草の分散の程度を繁殖特性とともに推定することは、海草藻場の保全を考える上で欠かせない。本研究では、フィリピン北西の約15kmのスケールを対象に、マイクロサテライトマーカーを用いた集団遺伝学的解析により熱帯性海草ウミショウブ(Enhalus acoroides)の分散の程度の推定、および繁殖特性評価を行った。

45m×45mのプロット9個を設定し、5m間隔のグリッドの各格子点上で計634個体のウミショウブを採取、解析した。遺伝子型と解析個体数の比であるClonal diversityは各プロットで0.69〜1.00となり、単一ジェネットが見られた個体間の最長距離は25mであった。Autocorrelation解析の結果、個体間の距離と近縁度が相関する例は少なかった。プロット間の遺伝的分化係数FSTは-0.002〜0.121の値となり、多くのプロット間で有意な遺伝的分化が示された。アサインメントテストにより13個体が他地点からの移住個体と推定されたが、9プロットのいずれかに由来するものは3個体であった。

以上の結果から、ウミショウブではクローンを形成することは少なく、個体群の維持には有性生殖が大きく貢献していることが示唆された。しかし、地点間で遺伝的分化が大きく、ウミショウブの分散は数kmの距離でも種子・果実等の分散が制限され、長距離分散の頻度は低いことが示された。


日本生態学会