| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-001 (Poster presentation)
木曽山脈天龍川流域の山地渓畔林の分布や種組成に関する報告はこれまでにないため,渓畔林の植物地理的な知見を蓄積することを目的に植生調査を行った.
木曽山脈天龍川支流のうち11河川を踏査し,5河川においてサワグルミやシオジが優占する14林分で植生調査を行った.また,中部・関東地方における既報の渓畔林の植生調査資料を用いて本地域の渓畔林の種組成と比較し,種組成の植生地理学的な特徴を考察した.
与田切川にはまとまった渓畔林を確認できたが,それ以外の支流で確認した渓畔林はいずれも小規模であった.渓畔林に常在度が高かった種は,オシダ,イトマキイタヤ,イワシロイノデであった.本地域における渓畔林は,種組成からヤマタイミンガサ-サワグルミ群集(CP群集)とシオジ-ミヤマクワマラビ群集(FD群集)の大きく2つのタイプが認められた.CP群集では,長野県東部や群馬県のCP群集でもみられるルイヨウボタンやラショウモンカズラなど,中国や沿海州にも分布するような種が多く含まれた.FD群集では,東京都のFD群集や秩父のイワボタン-シオジ群集(CF群集)でみられるギンバイソウ,テバコモミジガサなどの襲速紀要素とされる種は少なかった. また,多次元尺度法によって序列化した結果,木曽山脈天龍川流域におけるCP群集は長野県東部や群馬県のCP群集と類似度が高く,FD群集は他地域のFD群集だけでなく,CF群集,ヤハズアジサイーサワグルミ群集との類似度も高い傾向にあった.
日本固有の分類群が多く含まれる襲速紀要素の現代のフロラ形成には,太平洋側気候を重視する説と西南日本外帯の堆積岩地を重視する説があるが,本調査地域はどちらも当てはまらない.このことが襲速紀要素の出現の少なさと関連すると考えられた.