| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-005 (Poster presentation)

富士山南斜面亜高山帯におけるニホンジカによる被害状況

*遠藤幹康(東邦大・理),中嶋祐子(横浜国立大・環),丸田恵美子,瀧本岳(東邦大・理),梨本真(中央電力研)

近年、ニホンジカの行動圏が高標高まで拡大していると言われている。富士山南斜面では夏季は亜高山帯でもニホンジカをよく見かける。富士山は他の高山と異なり、火山噴火後遷移の途上にあるため、ニホンジカの影響が高まれば、遷移が妨げる可能性がある。シカは高標高で生息するものではないため低標高ほど被害が大きいと予測できる。そこで本研究ではニホンジカによる樹木への被害を標高別に評価することを目的として、標高の異なる3地点(2350 m、2025 m、1785 m)に20m×30mのコドラートを作成し毎木調査を行い、森林の組成を調査した。それと同時に剥皮部を長方形に近似し、面積を測定した。

植生調査の結果、1785 mでは常緑針葉樹のウラジロモミが山地帯の落葉広葉樹と混生していた。2025 mではシラビソが優占種になり、亜高木層では落葉広葉樹のダケカンバ、ナナカマドが混生していた。2350 mではカラマツ、トウヒが林冠木として生育しており、シラビソは亜高木が多く林床にはシラビソ稚樹が多く存在したため、遷移の途中だと考えられる。

剥皮はナナカマドとシラビソに多く見られ、枯死要因一つとして10%を占めていた。シカによる被害は、低標高ほど多く、低木が存在しないほど深刻であった。このことから、低標高ではすでにシカの食害が森林の更新を妨げている状態に達していると言える。さらにシカの高標高での増加が進めば亜高山帯森林の更新をも妨げることが予測される


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