| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-009 (Poster presentation)
日本は地殻変動が活発な地域であり、特に山岳地域の谷底部では断層が数多く存在する。断層がある場所は基盤岩が破砕されることにより亀裂や急崖が生じ、地表で生育する樹木にとって厳しい地形環境となる可能性がある。しかし断層と植生との関連性を論じた研究は非常に少ない。
そこで本研究では、地殻変動の活発な神奈川県丹沢山地西部西沢集水域のV字谷内にて、断層の有無を記録し、地形測量および谷底部から比高10m未満に出現する樹木位置の測量を行った。10m間隔のプロットに分け樹木分布と断層有無およびV字度、斜面傾斜、斜面形状(上下方向で凸・凹型)との対応を検討した。
1) 調査地の谷底周辺は急斜面(平均48度)で覆われ、流路際には土壌・樹木は分布せず岩盤が露出している.断層があるプロットでは、谷の断面形はより鋭いV字状になり、樹木分布下限が高くなる結果が得られた。
2) 樹木組成を検討した結果、断層の有無によってDCA第1軸の座標値が有意に異なっており、断層があるプロットでは先駆的性質を持つ樹種が出現しやすい傾向が見られた。
3) 多様度指数(H’)を説明する変数にはV字度、斜面形状、土壌分布下限比高に加えて断層有無が選択され、断層が有るプロットでは多様度が有意に小さいことが分かった。
以上の結果から、断層の存否は谷底部付近の斜面の形状に影響し、また断層の存在によって局所的に地表の不安定度が増すことで、植生に影響を及ぼすことが示された。本研究によって、断層が微地形レベルにおける樹木の群集構造や空間分布、種構成を決める重要な要因であることが初めて明らかとなった。