| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-010 (Poster presentation)
地球温暖化による気候変化は、消雪時期の変動を引き起し、高山植生の構造と機能に大きな影響を与えうる。このような影響を検出し評価するためには、非破壊的な手法で長期的に植生の構造を観察記録していく必要がある。本研究は、高山植生の長期モニタリングの始動にあたり、地形を介して生じる消雪時期の違いに対応した雪田植生の空間変化を明らかにする目的で行った。
調査は富山県立山連峰の室堂山北向き斜面(標高2409m~2568m)において実施した。長さ約100mの帯状調査区を5本、斜面下部の平地から上部にかけて設置し、各調査区には10m間隔で10点の調査定点(合計50点)を設定した。各定点において温度ロガーを地下5cmに設置し、消雪時期の推定を行った。また、採土円筒管を用いて土壌を採取し、その特性を調べた。さらに、ポイント・インターセプト法を用いた植生調査を2010年から2012年にかけて実施した(1m×1mの正方区画内100ポイント(10cm間隔))。
消雪時期は、稜線部・平地から谷地にかけて、また斜面下部から上部にかけて遅くなる傾向が見られた。谷地の深部では融雪・降雨時に沢が形成され、表層が流出し礫質な土壌となっていた。このため、消雪時期の遅い立地ほど、乾性で炭素・窒素含有量の低い土壌が形成されていた。冗長分析(RDA)の結果、ショウジョウスゲやコイワカガミ等は消雪時期が早く発達した土壌に、ヒロハノコメススキやキンスゲ等は消雪時期が遅く礫質で貧栄養な土壌に出現する傾向が強いことが分かった。これらの結果は、地形を介して生じる消雪時期の空間変異は、水の動きに伴う土壌攪乱の大小にも大きく関連しながら植生の構造に影響を及ぼしていることを示唆している。