| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-040 (Poster presentation)
富士山北麓の標高1000m付近の剣丸尾溶岩の上にはアカマツ林が広がっている。この地域は気候的には落葉広葉樹林が成立する冷温帯であるが、森林の亜高木・低木層には常緑広葉樹が優占しており、落葉広葉樹はまばらに出現する。林床は未だに溶岩が露出し、土壌は未発達であり、常緑広葉樹の優占は土壌栄養条件と関連していると予測される。そこで本研究では、常緑広葉樹・ソヨゴと落葉広葉樹・ミズナラの窒素とリンの動態を比較し、貧栄養な冷温帯において常緑広葉樹が優占している原因を探ることを目的とした。
アカマツ林内から、定期的にソヨゴとミズナラのシュート、土壌を採取した。葉サンプルは葉齢別に、葉面積を測定後、乾燥機にて約70℃で乾燥させ、乾燥重量を測定した。これを粉末状にし、全窒素量と全リン量を測定した。得られたデータより全窒素濃度、全リン濃度、単位面積当たりの窒素量・リン量、落葉時の窒素・リン回収率、窒素・リンの葉群の回転率を算出した。また土壌中の有効態窒素・リン濃度の季節変化を測定した。
土壌栄養量は、一般的な山地と比べて、有効態窒素・リン共に乏しかったことから、土壌は貧栄養状態にあると言える。落葉時回収率は、樹種間では落葉樹のミズナラよりも常緑樹のソヨゴの方が、栄養塩間では窒素よりもリンの方が、回収率が高かった。また両樹種の回転率は、樹種間では落葉樹のミズナラよりも常緑樹のソヨゴの方が、栄養塩間では窒素よりもリンの方が低い値を示した。
以上より、貧栄養な地域に生育する植物は栄養塩をより回収する戦略をとり、回収能力は落葉樹よりも常緑樹の方が高いこと、ミズナラとソヨゴでは栄養の損失が低いのはソヨゴであり、栄養を保存的に利用していることが示唆された。