| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-044 (Poster presentation)
利用可能な水資源量が限られている乾燥地に生育する植物にとって水の獲得や保持は重要な問題であり,そのためのメカニズムは多様である.そのメカニズムのひとつに,主幹から地表面を這うように匍匐枝を伸ばし,主幹からは地下水面近くまで主根を,匍匐枝の途中からは土壌浅層に不定根を伸ばす形態的適応が挙げられる.本研究は主根と不定根の吸水における役割の解明を目的とする.そのため,中華人民共和国内蒙古自治区・毛烏素沙地の優占在来種である臭柏(Sabina vulgaris Ant.) の匍匐枝の基部~不定根間と不定根~先端間の樹液流速度をHeat Ratio法を用いて測定した.さらに,匍匐枝先端の枝内の水,土壌水,地下水,降水,結露水の酸素安定同位体比(d18O)の時間変化を測定し,照合した.樹液流速度の測定結果から,降雨前は夜間に主根から匍匐枝先端側への水の流れがあることが分かった.したがって,土壌浅層が乾燥しているときは土壌深層の主根が吸水して匍匐枝先端にまで供給していることが示唆された.このとき,不定根からも吸水しているかどうかや土壌深層から浅層への根を介した水の輸送(hydraulic redistribution,HR)がおきているかどうかについてはd18Oのデータから考察する予定である.一方,降雨後は匍匐枝先端への流れ,匍匐枝から主根への流れがあることが分かった.つまり,降雨により土壌表層の水分量が多くなると,不定根から吸水して主根側と匍匐枝先端へ供給しており,土壌表層から深層へのHRの可能性も示唆している.以上より,土壌深層からの吸水は主根が行い,土壌浅層からの吸水は不定根によって行われることが分かった.より吸水源を明確にするためには同位体比を使って考察を進める必要がある.