| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-048 (Poster presentation)
クマイザサ(Sasa senanensis)は、北海道の冷温帯落葉広葉樹林の林床に広く分布する代表的な多年生植物である。落葉樹林の林床植物は、林冠の樹木が落葉する秋から冬にかけてと、融雪時期から林冠の樹木が展葉を始めるまでの春には、低温下で過剰な光にさらされる。そのような環境条件では、光と気温の関係から光ストレスが引き起こされると考えられる。しかし、このような林床に優占するササは枯死することなく越冬し、春にはまた新しく展葉する。本研究では、クマイザサが秋から冬にかけて増大するストレスに対して、生理的にどのような応答をするのかを明らかにすることを目的とし、クマイザサを用いた栽培実験を行った。
ストレス応答に関係する色素量の季節変化を調べた結果、早秋からの気温の低下に伴い、キサントフィルサイクルの色素量や脱エポキシ化の割合が増加する傾向が見られた。また、クロロフィルあたりのβ-カロテン量も増加する傾向が見られ、過剰光エネルギーを活発に熱放散している可能性が示された。一方、雪に覆われ積雪深が深くなると、キサントフィルサイクルの色素量やクロロフィルあたりのβ-カロテン量が減少する傾向を示した。また、脱エポキシ化の割合は積雪後すぐに減少し、その後積雪下でその値が維持される傾向を示した。これらのことから、クマイザサでは、積雪前に色素の応答が起こるが、その応答が積雪下でそのまま維持されるのではなく、光ストレスが積雪によって減少した後、その状態が外気より暖かく暗い積雪下で維持される可能性が高いことが分かった。