| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-052 (Poster presentation)

キク属植物の細胞内と細胞外に存在するフラボノイドの各種環境ストレスへの応答

*上原歩(農工大・院・連合農), 岩科司(農工大・院・連合農, 科博・植物)

植物が合成するフラボノイドは様々な環境ストレスに対し、防御物質として機能することが知られており、これまでに抗酸化活性や紫外線の遮蔽などが報告されている。ほとんどの植物は細胞内にフラボノイドを蓄積するが、いくつかの植物では細胞外(表皮の外)に侵出させており、これらは紫外線防御や抗菌機能を持つ。これらのフラボノイドの機能は蓄積箇所によって異なると考えられているが、ストレスに対する応答が同じなのか、そうでないのかは知られていない。

キク属植物(Chrysanthemum)は海岸や山地の岩場など、日当りの良い環境に生育することから乾燥や紫外線などのストレスにさらされている。これまでに演者らは日本産キク属植物の葉の細胞内および細胞外に存在するフラボノイドを同定したが、今回はこれらの各種環境ストレスに対する化学的な応答を検討する。

植物材料として、海岸に生育するアシズリノジギク、シオギク、山地に生育するリュウノウギク、そして両者に生育するチョウセンノギクを用い、自然環境下でこうむると考えられるストレス(塩、乾燥、紫外線)を栽培環境下で処理し、形態およびフラボノイドの質的量的変動を対照区と比較した。その結果、いずれの種も物質の質的な変化は認められなかった。量的な変動については、細胞内では一部の物質を特異的に増加、細胞外では特に塩および乾燥処理によってメチル化されたフラボノイドを一様に増加させる傾向がみられた。以上より、葉の細胞内と細胞外に存在するフラボノイドのストレスに対する応答は異なることが明らかとなり、細胞内では抗酸化活性や紫外線の遮蔽物質として機能し、一方、細胞外では疎水性の高い物質が乾燥や塩ストレスに対して応答したことから既知の作用だけでなく、葉の水分保持にも機能していることが推察された。


日本生態学会