| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-088 (Poster presentation)
近年,慣行的な里山管理が行われなくなったことで高齢化した広葉樹二次林が増加している.若齢での萌芽再生を繰り返すことで維持してきた森林は,一度高齢化すると萌芽能力が低下して元の状態に戻すことは困難とされているが,その科学的根拠はまだ十分ではない.そこで本研究では,里山林における萌芽再生機構を明らかにするために,萌芽再生能力の異なる樹種に着目し,その地下貯蔵物質の変動を調べた.調査は茨城県北茨城市の小川学術保護林周辺にある,伐採から25年程度経過した広葉樹二次林の2林分で行い,そのうち1林分は2011年の秋から冬に皆伐された.対象樹種はカスミザクラとコナラの単幹個体でそれぞれDBHが大~小のサイズクラスから24本ずつ選び,2011年から2012年の春~冬の各季節に粗根からサンプルを採取した.持ち帰ったサンプルから可溶性糖分とデンプンを抽出し,そこに含まれる非構造性炭水化物(TNC)濃度の定量を行った.その結果,個体サイズを考慮しない季節変動は可溶性糖分で両種とも同じような傾向を示したが,コナラではデンプンが秋に減少する傾向が顕著にみられた.個体サイズによる変動はコナラの小個体を除き,カスミザクラは個体サイズの増大とともにTNC濃度が減少するがコナラでは増大する傾向があり,それは特にデンプン濃度で顕著となった.また,伐採による影響は両種ともにTNC濃度がやや減少する程度で,大きな変化は生じなかった.これらの結果から両種ともに高い萌芽能力を持つが,地下貯蔵物質量が個体サイズに依存し,伐採によってもこの傾向が変化しないことが示唆された.伐採直後の萌芽枝発生には地下貯蔵物質量が影響することから,萌芽更新を目的として伐採する場合は伐採前の林分状況を把握しておくことが必要だと考えられる.