| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-089 (Poster presentation)
山口県熊毛郡上関町の特異な生態系について,日本生態学会はたびたび要望書を提出するなどその保護に取り組んできた.上関の植物と植生については,これまで上関原発計画地のある長島の田ノ浦を中心に調査してきたが,今回その対岸3.5kmにある祝島の植物相と植生を調査したので報告する.植物相の調査では,祝島全域を対象とし採集と標本の作製を行い,南(1988, 97)などにより近年記録された種をあわせてリストを作成した.その結果380種が記録された.これを岡(1953)および真崎(1969)によるリストと比較したところ,種の入れ替わりがあり,今回記録されず祝島から消えたと考えられる種が約70種あった.その内訳は陽地に生育する草本がほとんどを占め,耕作放棄や二次林の遷移が進んだため絶滅した種が出ていると考えられた.植生の調査では,5ヶ所に調査区を置き毎木測定を行った.島の東斜面にある二次林のプロットでは,林冠木の直径が20~40cmで,カゴノキ,ヤブニッケイ,ケグワ,ハゼノキ,ヤブツバキ,タブノキ,ムクノキなどが多く,ケヤキ,ムクロジ,アキニレも出現した.落葉樹の割合は断面積比で40~50%であった.この斜面の大部分はかつて畑であったが,これらの林は急斜面のため薪炭林として利用されていたと考えられる.山頂近くの緩斜面にある,現在の祝島で極相に最も近いと考えられるプロットでは,林冠木のスダジイの直径が40~70cmで,スダジイが断面積比で約80%を占め,落葉樹は10%に満たなかった.低木層以下は少なく,スダジイや高木種の稚樹も少数しかみられなかった.これらの林では薪炭利用が行われていた時にも林冠木が伐られることは少なかったが,柴刈は行われていたためにこのような構造になっていると考えられる.