| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-098 (Poster presentation)

湿原域における放棄牧草地の植生遷移を決定する要因

*柴田昌俊(北大・農),森本淳子(北大院・農),三島啓雄(北大院・農),比嘉基紀(北大院・農),志田祐一郎(北大院・農)中村太士(北大院・農)

北海道東部ではかつて多くの自然湿地が牧草地に転換されたが、過疎化と高齢化により休耕・放棄される牧草地が増えつつある。将来の湿地再生・保全には、放棄牧草地の植生遷移とその規定要因の解明が重要である。本研究では、放棄年数の異なる放棄牧草地で植生構造を明らかにし、植生遷移に影響を与える環境要因を検討した。北海道東部の標津川下流において、営農中及び耕作停止後5年、12年、14年、25年が経過した牧草地、残存湿地で2m×2mの方形区を設置し、植生調査と地下水位の測定を行った。また調査区周辺の植生面積割合を、環境省の1/2.5万の植生図より算出した。

調査の結果、調査地では放棄年数の経過とともに湿生植物の種数が増加した。また、地下水位も上昇傾向にあった。放棄直後には湿生一年生草本の優占度が高かったが、年数が経過した調査区では湿生多年生草本と低木の優占度が増加した。高木性樹木は、全ての調査区でほとんど出現しなかった。また牧草種は、全ての放棄調査区に比較的高い被度で出現した。非計量多次元尺度構成法による序列化の結果、放棄牧草地の植生は放棄年数の経過とともに、撹乱が少なく、湛水ストレスの高い環境に出現するヨシまたはホザキシモツケが優占する群落に移行する傾向が認められた。

以上の結果から、湿原域における放棄牧草地の植生遷移の初期は、湿生植物の増加、牧草の残存、草本群落あるいは低木群落の持続という特徴を有すると考えられる。牧草地は放棄に伴う地下水位の上昇で湿性植生に遷移すると考えられるが、牧草地の植生要素も数十年間は残存すると考えられる。


日本生態学会