| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-103 (Poster presentation)

中山間農地の森林組成の違いが森林性のカエル個体群に与える影響

*佐藤ひかる,星崎和彦,蒔田明史(秋田県大・生物資源),黒江美紗子(九州大・理)

日本の中山間農地では水田と森林が組み合わされた景観が維持されており、この景観構造が複数の環境を利用する生物(カエル、トンボ等)の多様性に貢献してきた。森林景観の変化に伴い広葉樹林が減少しスギ人工林が増加してきたが、スギ人工林は階層構造や林床植生が乏しく、鳥類やほ乳類から利用されにくいことが報告されている。そのためカエル類でも水田の背後にスギ人工林が広がる場合と広葉樹林が広がる場合では、生息できる種や個体数が異なる可能性がある。しかしながら森林組成の違いがカエルの数に与える影響を明らかにした研究はほとんどない。本研究では、中山間農地の背後に広がる森林タイプ(スギ人工林/広葉樹林)ごとの面積の違いが水田で観察されるカエル成体や卵塊の数を左右することを示す。

隣接するスギ林と広葉樹林の面積割合が異なる沢沿いの農地21箇所を対象に、モリアオガエルの成体と卵塊数、ヤマアカガエルの卵塊数をルートセンサスにより調査した。観察された卵塊および成体数を目的変数に、局所環境と周辺林面積(水田から2kmまで)を説明変数に含めた一般化線形モデルを解析した。どちらのカエルも周辺林の総面積だけを用いたモデルよりも、森林タイプを考慮したモデルの方があてはまりが良かった。モリアオガエルは広葉樹林面積から正の影響を受けており、周辺700~900mの範囲の森林が最も重要であった。ヤマアカガエルはスギ林面積から正の影響を受けており、400~500mの範囲が最も重要であった。

これらの結果から、種ごとに異なる範囲で異なる森林を利用していることが示唆される。中山間農地に生息するカエル類の多様性を維持するためには、周辺林面積だけでなく生息域内の森林タイプにも着目することが重要であろう。


日本生態学会