| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-105 (Poster presentation)
生息地の分断・縮小は、生物多様性消失の主な要因の一つである。分断化の影響を軽減するための手段として、分断化された生息地間をコリドー(生態的回廊)でつなぐという方法が知られている。東北地方のブナ林には保残帯(原生林を伐採した際、伐採地の間に幅30-50mで帯状・網目状に残された原生林)が存在し、近年その形状から保残帯がコリドーとして機能し、生物多様性保全にも貢献することが期待されている。保残帯のマトリクス(周辺の土地利用)には様々な種類があり、それぞれマトリクス内のポリネーターや散布者の種組成が異なると予想される。
この研究では、マトリクスや樹木の種類によって、保残帯内の実生が受ける影響に違いがあるか?を明らかにすることを目的とし、青森県八甲田山周辺のマトリクスが異なる保残帯において、樹木の毎木調査・密度調査を行った。また調査プロットを中心とした半径300m、1000m以内の土地利用(原生林+保残帯、人工林、二次林、放牧地)の割合を算出し、種ごとの実生密度との関係をGLMMで解析した。
その結果、ほぼ全ての種で母樹となる高木や低木の個体数が実生密度と正に相関していた。風散布植物は、原生林からの距離と負の相関をもったが、鳥散布植物は種によってその反応が異なっていた。マトリクスの影響は散布形式にかかわらず種によって異なった。これらの結果から、一般に保残帯内に母樹が存在することの影響は大きいが、風散布植物はそれに加えて原生林由来の花粉密度や種子供給の問題をもつ可能性が推測された。鳥散布植物については、主な散布者の行動やその範囲などを種ごとに検討する必要がある。また、マトリクスの違いに起因する伐採後から調査時点までの光環境の変化が実生の定着に大きな影響を与えていた可能性もあり、今後詳細な検討が必要である。