| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-121 (Poster presentation)

ハクサンハタザオの有毛型と無毛型に対する食害の頻度依存性

*佐藤安弘,川越哲博,工藤洋(京大・生態研)

植食者による食害は、より多い植物種が選択的に摂食されることによって、複数の植物種の共存を促進しうる。このような相互作用は群集レベルの現象として研究されてきたものの、植食者か植物種内の多型に対して同様の餌選択を行うならば、被食防衛形質の多型の維持に寄与する可能性がある。

演者らのこれまでの研究により、有毛型は無毛型に対して少数派のときにハムシに食害されにくいことが示唆されている。本研究では、他の植食者との相互作用も検証するために、ハクサンハタザオのトリコーム有無の遺伝的二型(以下、有毛型と無毛型)の相対頻度を変えて共通圃場に移植し、各植物の成長・繁殖と植食者の密度を記録した。

花期の初めには、アブラムシがハクサンハタザオを食害した。このとき、無毛型が多い区画では、無毛型よりも有毛型上でアブラムシ密度が高く、有毛型の花・果実数が無毛型よりも少ない傾向が見られた。しかし、これらの傾向はプロット間でばらついていた。また、有毛型が多い区画では、有毛型・無毛型間でアブラムシ数に一貫した違いはなく、繁殖成功にも顕著な違いは見られなかった。

さらに、花期の終わりにはモンシロチョウがハクサンハタザオを食害した。しかし、チョウの産卵数は、有毛型・無毛型の相対頻度とは関係なく、無毛型上でより多かった。この結果と対応して、チョウの幼虫数と食害された葉の数は無毛型で多い傾向が見られた。

以上の結果から、少なくとも本研究の範囲では、アブラムシとチョウの2種類の植食者について、有毛型・無毛型の頻度に依存した食害の確たる証拠は得られなかった。アブラムシに関しては、密度の異質性が有毛型と無毛型の頻度によるものなのか閉鎖系での更なる検証が必要である。チョウに関しては、より広い空間スケールでの検証が必要な可能性がある。


日本生態学会