| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-123 (Poster presentation)
シカによる食害の強さは対象植物の密度だけでなく,視覚的な遮蔽という森林の持つ属性等にも影響される.本研究は,相対的にシカ密度の低い道央の江別市に位置する野幌森林公園を中心とした地域で,食害の強さと林分属性との間の関係について明らかにすることを目的に行った.
札幌市とその南東部に位置する四市で,食害を受けた個体(食害個体)の数と森林属性との間の関係について予備的な調査を行った.対象とした地域のシカ密度は1 km2当たり約3頭で,食害の顕著な知床岬では100頭を超えるのに比べ著しく低かった.食害個体の数は,林分下層(高さ3 m未満)の植被率の増加に伴い少なくなる傾向が見られた.この原因として,対象地域ではシカ密度が低いことから,物理的に移動が制限されたり,採餌対象が遮蔽されたりするような林分で採餌することが稀であることが挙げられる.
野幌森林公園(0.9頭/km2)において,遊歩道や作業道等の脇(林縁)および林内に設定したルート(総延長46.8 km)で,食害個体の位置を記録した.また,森林属性(林分高,樹冠疎密度等)から林分を類型化し,その分布から対象地域を4つのゾーンに区分して食害密度(ルート100 m当たりの食害個体数)を比較した.4つのゾーンのうち自然林,人工林を問わず林分高が約15 m以下の林分型が優勢なゾーンで食害密度が最も高かった.また,食害を受けた全個体の3分の1に当たる213個体はオオウバユリで,上に示したゾーンでもオオウバユリが最も高い食害密度を示した.同じ調査地で,オオウバユリの食害個体数と生育密度との間に一定の関係が見られないことが示されていることから(伊藤未発表),シカの採餌が,林分高の低い林分の縁でより頻繁に行われていることが予想された.