| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-127 (Poster presentation)
森林には様々な樹種の堅果が存在し、虫害を受ける場合も多い。貯食散布者であるネズミと健全堅果の関係は、かなり調べられてきた。しかし、虫害堅果は、餌としての魅力は低いものの、ネズミに持ち去られているかもしれない。さらに、昆虫に胚軸や幼根を摂食されなければ発芽可能であり、森林の更新に寄与しうる。したがって、虫害がネズミによる堅果の持ち去りにどのような影響を及ぼしているのかを解明することは、貯食散布の“現場”における有効性を考える上で重要である。
そこで、樹種 (クリ、ミズナラ) と昆虫の産卵孔・脱出孔の有無 (健全、軽度虫害、重度虫害)から分類した計6種類の堅果を用いて、野外のネズミに対する供試実験を行った。堅果の組み合わせを変えて餌台に静置し、樹種間、虫害程度間、樹種および虫害程度間で持ち去り率を比較した。また、餌台の前に赤外線センサーカメラを設置し、その画像から持ち去り順序、ネズミ種を確認した。さらに、堅果の一部に小型発信機を装着し、供試一晩後に追跡した。堅果が発見できた際は、散布先のデータ (散布距離、埋土深、捕食状況、貯蔵様式、林床環境) を記録した。
今回の実験では、アカネズミ、ヒメネズミ、スミスネズミが堅果を持ち去り、それぞれの選好パターンは同様になった。すなわち、クリ健全=クリ軽度虫害>クリ重度虫害>ミズナラ軽度虫害>ミズナラ重度虫害>ミズナラ健全となった。クリの場合、アカネズミとヒメネズミでは、健全堅果が最長55mも散布されたが、虫害堅果は10m以内であった。また、埋土深は虫害程度に関わらず、5cm以下と浅い傾向が見られた。スミスネズミでも、虫害堅果が近距離に多かったが、比較的深く埋められる事例が確認された。これらの結果から、ネズミは虫害堅果を識別して持ち去ることが実証されると同時に、散布距離や埋土深を微妙に変化させていること等が示唆された。