| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-141 (Poster presentation)
近年、ニホンジカの餌資源である林床植生が減少し、餌が極度に制限された生息地においてもシカの高密度状態が維持されており、そのような生息地では代替餌として落葉の利用が報告されている。落葉は安定的に供給されかつシカによる採食の影響を受けにくいため、高密度状態の維持に寄与している可能性が考えられる。そこで本研究では、シカの生息数と主要餌植物の変化が長期間モニタリングされている洞爺湖中島において落葉の栄養学的な評価を行い、代替餌としての落葉がシカ個体群に与える影響を検討した。調査地での主要餌植物は1980年代前半まではササだったものの強い採食圧により消失し、その後ハイイヌガヤと落葉に変化したが2000年代前半にはハイイヌガヤの消失により、現在では落葉のみとなっている。そこで本研究は過去の主要餌植物及び現在の餌植物である落葉の栄養価を分析するとともに、粗蛋白質含量と熱量及び利用可能量から栄養学的環境収容力を算出した。
落葉は夏季に CP含量が他の餌資源より高く NDF含量が低いことから夏季は非常に高質な餌資源であると示唆された。また秋~冬季はCP含量が低下するもののシカの体重維持に必要な要求量は満たし、また熱量の高さからシカ個体群の維持に貢献すると考えられた。落葉の栄養学的環境収容力は、利用可能量は少ないが高質な夏季に低く、多いが低質な秋季に最大になった。そのため落葉の利用は体重維持のための餌資源としては特に秋季に有効であるが成長や育児等で必要な栄養は通年で欠乏すると示唆された。これらの結果から餌資源制限下において落葉は重要な餌資源となっており高密度状態を維持する代替餌として影響している可能性は高いが、蛋白質不足からシカ個体群に負の影響を及ぼすものと示唆された。