| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-148 (Poster presentation)
植物の利用する種子散布者は非常に多様であり、種子形質や親形質の異なる植物種間で散布者構成が著しく異なる。散布者構成は環境変化に伴う分布拡大速度や個体群の存続に直接的に影響するため、近縁種間における散布者構成の違いがどのような進化要因により生じたのかは非常に興味深い。先行研究により、様々な要因が散布者構成との関連で議論されてきたが、植物種間における最適な散布パターンの違いという要因は、その重要性にも関わらず、野外における散布パターンの定量化が困難なため検証されていない。
アリに種子散布を依存する「アリ散布植物」は、他の動物に種子散布を依存する植物と比べ散布距離が著しく短いため、野外での散布パターンの把握に適している。また、アリの種間で散布距離や散布場所に違いが見られるので、散布者構成の進化要因を検証する上で適した材料である。
本研究では、アリ散布植物であるヒカゲスゲとモエギスゲの形質が散布者構成に及ぼす影響を調べ、親植物の生育環境を両種間で比較した。その結果、ヒカゲスゲは散布距離の長いアリ種、モエギスゲは散布距離の短いアリ種による種子散布を促進する種子形質と結実フェノロジーをもつことが明らかになった。また、モエギスゲの方がヒカゲスゲより植生被度が低い場所に生育することが判明した。これらの結果から、競争者の少ない場所に生育するモエギスゲでは、好適地を逸脱するリスクを抑えるために散布距離の短いアリ種に特殊化した可能性、および、競争者の多い場所に生育するヒカゲスゲでは、好適地逸脱という長距離散布のコストよりも、競争の回避や空間的なリスク分散といった長距離散布の利益の方が大きく、散布距離の長いアリ種への特殊化が進んだ可能性があると考えられた。