| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-149 (Poster presentation)
リス属によるオニグルミ堅果の貯食行動は,様々な場所に貯食された堅果が食べ残されることにより,発芽の機会を得るため,水流および重力散布に頼るオニグルミの分布拡大に貢献しているといわれている.しかし貯食された場所が生育に適した立地でなければならない.そこで本研究は川沿いの林内において,オニグルミの立木位置のマッピング,樹齢調査により,どのような経路で分散したかを明らかにすることで,エゾリスによる貯食行動がオニグルミの分布拡大に影響を与えているか検討した.
調査地は北海道東部に位置する玉川大学弟子屈演習林で,調査地の南側に釧路川が西から東へと流れている.川の流れに対して垂直方向に約150m,幅約200m,高低差約10mの範囲の林で調査を行った.川から約100mの地点までは川と同じ標高で,湧水によりところどころ沼地があり,釧路川に向かって小川が流れている.この沼地から約50mの斜面が釧路川と並行にある町道まで続く.調査地を川からの距離(川に対する標高)で①0~100m(0m),②100~125m(0~50m),③125~150m(5~10m)の3つの範囲に分類し,それぞれの地点に生育するオニグルミの樹齢を計測した.
調査地ではエゾリスによるオニグルミの食痕が発見されたため,エゾリスが散布に関与していることがわかった.オニグルミは沼地と小川以外の場所に点在し,平均樹齢は①43.1年,②35.4年,③22.2年であった.調査地は1980年代から行われた釧路川の河川改修後にできた場所であるため,それ以降,リスによる散布が可能になったことが推測される.よってエゾリスが①の堅果を②へ運搬し,②の堅果を③へと運搬することで,もっとも川に近い①に生育するオニグルミを母樹として,段階的に川から離れた方向へと分布を拡大させたと考えられる.