| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-153 (Poster presentation)

蜜報酬の偏在がスズメガの花選好性に及ぼす影響

*廣田峻,新田梢,安元暁子,矢原徹一(九州大・理)

花形質は送粉者との相互作用によって進化したと考えられてきた。特に,花色や花香といった誘引形質は送粉者の選好性に関連づけられる。その一方で,送粉者は誘引形質と蜜報酬を関連づけて学習でき,それに伴い形質に対する選好性は生得的なものから変化する。誘引形質に多型がある場合,早い時間帯に訪花する送粉者の訪花頻度によって,遅く訪花する送粉者の選好性が変化する可能性がある。

キスゲ属のハマカンゾウとキスゲはそれぞれアゲハチョウ媒,スズメガ媒に適応した花形質を持っている。ハマカンゾウは朝開花し夕方閉花するという昼咲きの形質を持ち,花香が非常に弱い赤い花をつける。キスゲは夕方開花し翌朝に閉花するという夜咲きの形質を持ち,甘く強い香りの黄色の花をつける。本研究では,ハマカンゾウ24株,花色・花香に多型のあるF2雑種 12株の混生集団において, 昼行性のアゲハチョウが夜行性のスズメガの選好性に与える影響を調べるために,3つの条件でスズメガの選好性を観察した。

その結果,アゲハチョウとスズメガが自由に訪花できる環境でスズメガは黄花を選好したが,昼の送粉者の影響を排除し全ての花に花蜜がある環境では,集団中に優占する赤花を選好した。さらに,アゲハチョウによる花蜜の枯渇を再現した,ハマカンゾウの花蜜を取り除いた実験集団において,スズメガは花色には有意な選好性を示さず,形態形質である花冠の向きや奥行きに対する選好性がみられた。

以上のことから,スズメガの選好性はアゲハチョウの訪花頻度に加えて,それ以外の環境要因も大きく左右されることが示唆された。昼咲きから夜咲きへの進化過程を明らかにするためには,スズメガによる選択だけでなく,それ以外の要因についても考慮する必要があるだろう。


日本生態学会