| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-198 (Poster presentation)
捕食者は栄養カスケードを介して、陸上や海洋の様々な群集において間接的な効果を及ぼす。この栄養カスケードは、捕食者が被食者の密度を減少させる消費型効果と、特性を変化させる非消費型効果によって生じるが、これらの直接効果の強さについて調べた研究は少ない。また、これらの強さは、資源の質や量、捕食者の捕食方法などによって決まるとされてきたが、被食者の特性(例えば密度)に注目した研究はほとんど存在しない。
岩礁潮間帯にすむ藻食性カサガイであるキクノハナガイ (Siphonaria sirius) は、捕食者である肉食性巻貝イボニシ (Thais clavigera) に対し、活動停止や逃避といった反応を示す。今回、野外の実験区において、高低2段階のキクノハナガイ密度における消費型と非消費型直接効果の強さを評価した。消費型の実験操作としては実際の捕食圧に応じてキクノハナガイを段階的に除去し、非消費型の操作としては実験区内のケージからイボニシの捕食時の匂いを放出させる処理をおこなった。
その結果、低密度では非消費型効果として、キクノハナガイの活動率や摂餌率、成長率の低下が見られたが、高密度では非消費型効果が検出されなかった。軟体動物では一般に飢餓により捕食者回避行動が抑制されることから、高密度では餌不足のために非消費型効果がみられなかったと考えられる。一方、消費型効果として、高低両密度においてキクノハナガイの生存率が増加した。これは除去処理により種内干渉が弱まったためであると考えられる。以上の結果から、密度という被食者の特性が、消費型と非消費型直接効果の強さに影響することが分かった。さらに、藻類相の変化という間接効果も低密度区のみで検出されたことから、被食者密度は間接効果の強さにも影響することが明らかになった。