| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-208 (Poster presentation)
人為影響を受ける前の湖沼の状態を把握することは、湖の具体的な保全目標を設定するために必須である。しかし、湖沼では人為影響が顕在化した後に生物・水質の定期観測を開始することが多く、かつての生態系や生物群集を伺い知る手がかりは極めて少ない。この困難を克服するため、私達は湖の堆積物に蓄積されている生物・化学情報を詳細に解析することで、過去の湖の状態を回顧的に再現できる手法を開発している。木崎湖は長野県大町市の仁科三湖の一つであり、19世紀後半以降、国内各地の湖沼からワカサギ、ヒメマス等が放流され内水面漁業が発展した。また、利水のための人為的な水位変動や集水域の開発に伴う富栄養化が生じた。木崎湖は我が国の陸水学研究の中心的な湖沼の一つであり、散発的ではあるが高度経済成長期以前の研究があるなど、過去100年に渡る知見が蓄積されている。これら知見と比較すれば、湖沼堆積物から過去の生物群集を復元することの有効性を検証することが出来る。この利点を生かし、私達は木崎湖の湖底堆積物に含まれる動物プランクトン遺骸を解析することで、そのプランクトン群集の近過去復元を試みた。動物プランクトンの中で、Daphniaは魚の選好的な餌生物である一方、高い摂餌能力を持つため植物プランクトン群集に強い影響を及ぼすことから、湖沼のキーストン生物と考えられている。そこで本研究では、特にDaphnia類に注目し、その遺骸の定量解析とともに休眠卵鞘を用いた分子生物学的解析を行った。その結果をもとに、湖底堆積物から近過去生物群集を復元することの有効性を議論する。