| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-211 (Poster presentation)
野生動物の行動追跡には、現在、GPSを用いるのが主流である。しかし、GPSによる追跡では、位置情報を蓄積したロガ―の回収が必須であり、回収には多くの困難が伴う。また、回収に成功した場合も、追跡個体の利用した場所を知り、現地踏査を行うまでに最低でも数週間程度のタイムラグがあるため、現地に残された痕跡や糞などが消失する恐れもある。
GPS-TX(岩手大学、岩手県立大学、(株)数理設計研究所共同開発)は、『スペクトラム拡散方式の通信装置、及び高速同期法』の通信技術を野生動物の追跡に応用したものである。本システムは、追跡個体の位置情報をGPSにより測位した後、位置情報を直ちに受信局に送信するため、ロガ―を回収せずに追跡個体の位置を知ることができる。そのため、位置特定にかかる労力を大幅に削減し、追跡個体の現在位置を常に高精度で把握可能である。
著者らは、2011年8月より、岩手県遠野市におけるツキノワグマ(Ursus thibetanus:以下クマ)の行動追跡に本システムを適用している。行動追跡では、クマの利用頻度の高い場所を3日以内に現地踏査し、真新しい糞や食痕等の資料を採集する他、林況や下層植生の様子を詳細に記録することで、クマが「その場所で何をしていたのか」を考察することが可能となった。特に、夏期におけるクマの行動追跡では、追跡個体がアリ科((Formicidae( spp.)の社会性昆虫を採食しながら徘徊する様子が頻繁に確認され、夏期のクマの餌資源であるアリ科の資源分布が、クマの移動や採食等の行動に大きく影響している可能性が示唆された。今後は、同調査地においてアリ科の資源量を環境別に把握し、クマの行動との関連性を詳細に調査する予定である。